ミッキーの短編小説「夢の中へ」

ミッキー  2012.7.6

「ああ・・・また無い。」

そう私はつぶやくと、重い腰をあげ、井上陽水のあの唄を口ずさむ。

探し物はなんですか。見つけにくいものですか。
カバンの中も机の中も探したけれど見つからないのに。

まだまだ探す・・・つもりはない。
もちろん踊るつもりもないが。

ここ最近、私の身の回りで不可解な事が起こっている。

物がなくなるのだ。

そう聞くと、かなりの事だと思われるかもしれないが、そうでもない。
なぜなら、無くなる物は全て「ちょっとした物」なのである。

例えば、使いかけの目薬、上下巻ある小説の下巻、香水のフタ。
小説は読みかけだった為、犯人が分からなくて少し困ったが。
それでも、本屋に行けば同じ物は売っている。
なので、いつも「まぁいいか」という気分になるだけで終わってしまうのである。

さて、今回は眉毛を整える時に使う小さなブラシだ。
井上陽水を口ずさみながら、部屋の中を探したが見当たらない。
仕方が無いので、その辺にあった綿棒で眉毛を整え、家を出た。
ほら、どうにでもなるのだ。

初めは、酔っ払って無くしたのだろうと思っていた。
でも、違うのだ。
夜、私は「それ」を置いた事を確認してから眠る。
朝起きると、「それ」はもうそこにはないのである。
「それ」がちょっとした物の時にだけ。

「小さな妖怪がいてさ、一生懸命いたずらしてるのかなぁ」
ある夜、恋人に冗談めいて相談してみた。
すると彼は、
「くだらない事言ってないで、早く式場押さえないとうちの親が・・・」
受話器の向こう側の彼の声を、耳かきをしながらぼんやりと聞く。

学生の頃から付き合っている彼と、私はもうすぐ結婚するらしい。
らしい、というのはこの結婚が何だか他人事のように思えているからである。
正直にいうと、迫り来る年齢からの逃亡婚だ。
彼のことは好きだが、私の幸せはそこにあるのだろうか。
これが俗にいう、マリッジブルーなのか?本当に彼でいいのか?

「・・・聞いてる?もしもし?」
次々と湧き上がる自問自答を、今夜も彼の声が蹴散らす。
「聞いてるよ。式場ね・・・」

耳かきの綿の部分が見当たらない。

その後も、眼鏡ケース、三つ目のライター、DVDのケースなどちょっとした物が姿を消していった。

そんなある日、私は異変に気付く。
ここ最近、何も無くなっていないのだ。

「妖怪、どこかに行っちゃったのかなぁ」
と少し寂しく思いながら、出かける支度をする。

そういえば、あんなに毎日鳴っていた電話がここ最近鳴っていない。

綿棒で眉毛を整えた私は、久しぶりに井上陽水の唄を口ずさんだ。

やっぱりまだまだ探すつもりはないし、踊るつもりもないが。