第8回ミッキーの徒然コラム「思い出、梅雨だくで」

ミッキー  2011.6.21

梅雨ですね。
窓ガラスを割らんばかりに、ぶつかってくる大粒の雨。
乾燥気味の肌をいたわってくれているかのような、霧状の雨。
雨、雨、雨。
雨音を聞いていると、物思いにふけってしまいませんか?
これからの事を考えたり、大切な人の事を想ったり・・・。
私は、どうでもいい人の事を思い出したりします。
まったくもって、私の人生に何の影響も与えなかった人の事を。

大学1年生になった私は、居酒屋でアルバイトを始めました。
そこで、二つ年上の社員「早坂さん」に出会ったのです。
少ししゃくれていたけど、伊勢谷友介に似ていた彼は私の心を奪っていきました。

テキパキと仕事をこなす、早坂さんに淡い恋心を抱いて、数ヶ月・・。
ロマンスの神様が私に微笑んでくれました。

帰りが遅くなったある日、早坂さんが車で送ってくれる事になったのです。
ドキドキしながら待っていると、そこに現れたのはベンチコートを着た彼。
ベンチコート=子供のサッカーの応援に来ている母親、という概念しかなかった私の頭に「?」が浮かびました。
しかし、私の中の恋心が「寒いし!ベンチコート着るくらい寒いし!!」と納得させてきました。

いざ、彼の車へ。
キュンキュンしながら駐車場へ向かうと、そこにあったのは、とてつもなく車高の低い車。
車高の低い車=ヤンキー、という概念しかなかった私の頭に「??」が浮かびました。
しかし、またもや私の中の恋心が「かっこいいのかも!よく分からないけど、かっこいいのかも!!」と言い聞かせてきました。

まさに、「恋は盲目」状態でした。

そんな私の恋心は晴れて報われ、早坂さんと付き合うことになるのですが・・・。

彼の私服は、少し変わっていました。
腰にトレーナーを巻いていて・・・まぁ、ここまでは百歩譲って許そうとします。
彼は、腰とトレーナーの間にいつも缶コーヒーを挟んでいたのです。
理由をたずねると、「便利だから」。
ここでも、私の中の恋心が「本当だ!便利!すぐに取り出せるしね!」と囁いてきました。
またある日、キャップをかぶっていたのですが、どこをどう見ても競馬場にいるおじさんがかぶってるやつでした。
まだ22歳なのに。
すると私の恋心は、「渋い!その年でそのキャップは、なかなかかぶれないよ!」とすり込んできました。
後日、私好みのキャップをプレゼントしたりと、悪あがきもしましたが。

そんな恋心に惑わされていた私ですが、ただひとつ許せない物がありました。
彼が大事にしていたマフラーです。
ボロボロで、たまにカピカピになった米粒がついていたけど、それはいつも彼の首に巻かれていました。
私が気に入らなかったのは、そのマフラーはモトカノにもらった物だと聞いていたからかもしれません。

「恋は盲目」から、「恋は近視」くらいになってきた頃、早坂さんが家に転がりこんできました。
なぜか、タコ足配線ひとつ持って。
同棲なんて考えてもいなかった私は戸惑いましたが、とりあえずタコ足配線を家のコンセントに差し込みました。

そこから3ヶ月、私の恋心は何も言わなくなっていました。

デートがいつもパチンコだった事にも、家に帰ると仕事の反省をさせられた事にも、
借金がある事にも、風俗狂いだった事にも、恋心は何も言ってはくれませんでした。

もう、私の中に恋心はいなかったのです。

便利な世の中なもので・・・メール一通で私達は終わりました。
「こっちは、最初から好きじゃなかった」という返信に怒り狂った事もありましたが、
今でもタコ足配線はありがたく使わせてもらっています。
しかし、最近まで誰にもらったのかを思い出せないほど、早坂さんとの思い出は薄く、遠い記憶になっていました。
先日、彼を見かけるまでは。

パチンコ屋に入って行く、相変わらずの彼の頭には・・・見覚えのあるキャップがありました。
当時、私がプレゼントしたものです。
少し変わったデザインなので、すぐに分かりました。
遠くからでも分かるほどボロボロになったキャップを見て、私は彼が大事にしていたマフラーを思い出しましたが、
すぐに忘れました。

「どうでもいいよ」と久々に私の恋心だったものが口を開きました。

梅雨の季節、あなたは何を思いますか?

おわり